「仮面ライダー THE FIRST」と「龍の子太郎」


仮面ライダーTHE FIRSTスーパービジュアルガイドブック


龍の子太郎 (子どもの文学傑作選)


ヒーローと正義 (寺子屋新書)

 映画「仮面ライダー THE FIRST」を観に、妻と次男と(東京)大泉学園まで行ってきた。自分は多摩に住んでいる(最寄駅は国立)が、近くで上映していないためだ。「仮面ライダー THE FIRST」を上映している映画館は意外と少ない。昨年から特撮モノのリメイクが続いているが、今一、客は入っていないのだろうか。




 白倉伸一郎氏プロデュース、井上敏樹氏脚本作品で初代仮面ライダーの、”改造人間”というテーマにスポットを当てた作品。様々なバイオ・テクノロジーの進化により、現在のブラウン管では”改造人間”という言葉は、既にタブーになっているらしい(参照:白倉伸一郎著「ヒーローと正義」)。仮面ライダー=”改造人間”の孤独を(「冬のソナタ」ばりに)「恋愛」「純愛」というテーマから掘り下げようとしたスタッフの心意気は十分受け取れたが…。しかし、「恋愛」ドラマというものは、登場キャラクターへの共感=感情移入ヌキには意外と見ることができないもので、ちょっと難しい挑戦だったかなぁ、と。両氏の試みには多大な敬意を感じてはいるのだが。




 ただ、今回の仮面ライダーはとにかくカッコイイ。仮面ライダー1号、2号、蜘蛛男、蝙蝠男、コブラ男の「リファイン・デザイン」担当は、「ラーゼフォン」監督、「闘将ダイモス」、「聖戦士ダンバイン」、「逆襲のシャア」メカデザイン、「機動警察パトレーバー」原作などを担当した、日本アニメ・特撮界の誇る鬼才絵師・出渕裕氏。出渕氏がデザインした、「仮面ライダーアギト」で無免許医師・木野薫が変身するライダー、アナザー・アギトのラインを継承した現実味溢れるデザイン。仮面を被っているというコンセプトにこだわり、仮面から髪の毛がはみ出ているところが何ともいい。この映画、これだけでもヨシとするしかない。戦闘員のデザインが出渕裕氏でなかったのがものすごく残念。パンフレットには、「炎の転校生」「逆境ナイン」の島本和彦氏、「仮面ライダー the Spirits」の村枝賢一氏らの書き下ろしイラストが掲載されていて、貴重だ。ウェンツの演技が意外と素晴らしかった。




 上映まで1時間の空きがあり、東映アニメーション社を訪れてみた。中学生時代真剣に金田伊功氏の弟子になりたかった時期、スタジオNo.1の住所を電話帳で調べたことがある。大泉学園近辺に存在していたと思う。その他、スタジオZ5や、荒木伸吾プロダクションもこの付近だった。それもこれも東映アニメーション本社が大泉学園に拠点を置くためだ。守衛室で「見学したいのですが」と言うと、入管章を渡されて、「手前のビル1Fが展示室(=東映アニメーションギャラリー)として公開されています。その他は仕事場ですので立ち入りはご遠慮ください」と年配の警備員に丁寧に応対してもらう。




 展示室では(9月3日〜11月27日のあいだ実施中)、




 名作アニメ原画展『龍の子太郎』の世界




 が開催されていた。原作・松谷みよ子、演出・浦山桐郎(「キューポラのある街」監督)、音楽・真鍋理一郎、アニメ演出(=絵コンテ)・葛西治、作画監督小田部洋一(以上敬称略)らの手によって、1979年3月17日に公開された東映のアニメ映画だ。この映画は何度か見たことがあった。その脚本、絵コンテ、原画、動画、背景画、セル画が展示されている。原画スタッフには後に「キューティーハニー」「マジンガーZ」などの作画監督となった荒木伸吾氏、「未来少年コナン」などで大塚康夫氏の作画をサポートした才田俊次氏らが名前を連ねている。




 小田部氏の原画がスゴイ。人物や動物を描いている原画に、線の修正が無い! 線がものすごくシャープ。女房と「これは本当に上手いなあ」と感嘆していると、村松さんという案内の方(東映アニメーションの古い社員のかた。男性)がやってきて「小田部氏はもともと日本画をやっていたんですよ。普段のデッサンなどでも筆に墨をつけて絵を描くんです」と親切に教えてくれる。




 「この作品は監督が絵が描けない実写畑の人だったため、葛西さんが絵コンテを行う、という分業監督体制だったのです。また、原作を読んで、イメージ・スケッチを各アニメーターが持ち寄って、この会社(東映アニメーション)の社内にドンドン貼り付けていたような時代でした。」(大意。村松氏のお話から引用)。




 村松さんは、あの高畑勲氏と同期(東映)入社だったという。「あの方は本当に絵が上手で、どんどん差をつけられましたがね。今も東映は一年に5人ほど作画ができる人も新卒で雇ってはいるんですよ。ですが、ちょっと有名になると独立していきますし、生活のために収入が不十分だと辞めていく人も多いです。育てても育てても、離れていきますね。長い歴史のなか東映アニメーションで育った人は次々と外へ出て行ってしまって(例:大塚康夫氏、宮崎氏、荒木伸吾氏 etc…)。IT、コンピュータのため、今は彩色もフィリピンに発注するようになった。アニメブームといっても、アニメ界の人材の空洞化は進んでいるような気がしますね」と、村松さんは寂しそうに語っていた。




 サービス業、販売業よりも。音楽奏者とか、役者とかよりも。画家とか、漫画家よりも。アニメーターというのは孤独な仕事だろう。お客さんの反応がダイレクトに掴めない。本当に裏方な仕事だ。だからこそ、一生懸命、自分のやってきた仕事を、私たちに説明してくれる村松さんが本当に素晴らしく思えた。皆さんも是非、東映アニメーションギャラリーを訪ねてみてください。




 そんな村松氏の話を聴きながら、館内では、東映アニメ「龍の子太郎」がビデオ上映されている。太郎と笛の上手な少女”あや”が、湖から龍(=太郎の母)を呼び出す感動的なシーン。あやは笛の音色、龍笛(りゅうてき=雅楽で用いる横笛)だと思う。龍笛は吹き口(=「歌口」(うたぐち)という)のほか、音程調節のために7つの穴(=「指穴」という)を持つ。7つの穴を左から塞いでいくと、以下の音階を得ることができる。
塞がない 左から1番目を半分塞ぐ 全部塞ぐ 2番目 3番目 4番目 5番目
|D |C |B |A |G |F# or F |E|
|六 |T |中 |夕 |上 |五 |〒|




 6番目から、7番目の穴を塞ぐことは滅多に無い。以上のスケールで雅楽、神楽などは演奏されている。なお3段目は雅楽風音階名。左から「ろく」「げ」「ちゅう」「しゃく」「じょう」「ご」「かん」と読む。また、「上」は本当はアルファベットTの字を180度回転したものである。フォントで見つからなかったのでご了承。「五」の音は、FなのかF#なのかはっきり区別できない非常にファジーな音である。単純に見ると龍笛のスケールは、




 E-F#-G-A-B-C-D




 ということになるが、音階的研究はまた日を改めて行うことにしよう。あやが太郎の母龍を呼び起こすシーンの音楽は、ゆったりしたテンポで

4/4
+ + + + + + + + +
:G---|-C-------B-----G-|-C-------B-------|
+ + + + + + + +
:|-E---F-F#G-------|-F#------------G-|
+ + + + + + + +
:|-C-------B-----G-|-C-------B-----G-|
+ + + + + + + +
:|-F-------E-------|---------------G-| 
 というメロディライン。ギターで弾くなれば、

+ + + + + + + + +
e:----|-----------------|-----------------|
B:----|-----------------|-----------------|
G:----|-5-------4-------|-5-------4-------|
D:--5-|---------------5-|-----------------|
A:----|-----------------|-----------------|
E:----|-----------------|-----------------|
+ + + + + + + +
e:-----------------|-----------------|
B:-----------------|-----------------|
G:-----------------|-----------------|
D:-2---3-4-5-------|-4-------------5-|
A:-----------------|-----------------|
E:-----------------|-----------------|




 ディストーションばりばりにかけて、ゆっくりと、ロングトーンで。是非一度、東映アニメーションギャラリーを見学してください。龍笛はプラスチック管なら、5000円ほどで入手できます。面白いですよ。





# とまあ、このようにいつも偏狭な話しかしないのだが。


# コチラなどを参照。「ホルス」「ひみつのアッコちゃん」の作画スタッフに確かに村松さんいらっしゃるようです。同一人物か否かは筆者は保証しかねますが、お話が聴けて本当に光栄だなぁ。




■関連リンク:仮面ライダー THE FIRST 公式サイト 東映アニメーションギャラリー


■関連記事:仮面ライダーアギト