「音楽美学」を読む【2】ベートーヴェンピアノソナタ「熱情」





グルダ(フリードリヒ), ベートーヴェン


ベートーヴェン:ピアノソナタ第8番&第14番&第23番&第26番




野村 良雄


音楽美学 改訂




濱瀬 元彦


ベースラインブック

 引き続き、野村良雄著「音楽美学」第二章「音楽の形式」を読み進めながら、ベートーヴェンピアノソナタ第23番へ短調作品57の「熱情(アッパッショナータ、Appassionata)」の研究を進める。




 野村良雄氏が「和声動機と導音動機の対比」として、冒頭8小節(うち4小節ブロック)で提示されるテーマ部を解析していることを昨日は検証した。だが本著で「和声動機」「導音動機」というキーワードが出現するのは本第二章が初めてであって、著者によるそのキーワードへの説明等は付与されていないので、今日はソレを補完してみることにする。




 音楽用語で言う「動機」の意味が長年ピンと来ないのであるが、動機=モチーフ、モティーフ=motifな訳で、幅広く訳すと「動機」のほか、「基調」「主題=テーマ」などの意味がある。「君のモチベーション(Motivation)がさぁ」などと説教される際のMotivationもMotif を語源としてるようだ。「動機」として訳されるからいまいちピンと来ないわけで、「フレーズ」と訳せばいいんじゃないかと思っている。「楽曲を構成する核となるフレーズ」の意味でだ。「音楽は『リズム動機』『旋律動機』『和声動機』などから構成される」という意味は、「音楽は、『このリズムに曲を乗せてみよう』『この口笛フレーズを主題として曲を書いてみよう』『このコード進行にメロを乗せてみよう』という気持ちから構成される」程度の意味と捉えて問題ないだろう(極論)。




 ということで、1〜2小節。「和声動機から成り立っている部分」は、「Fマイナーの主要3和音のアルペジオから成り立っている」という意味に過ぎない。


12/8 allegro assai
Fm
+ + + + + + + + + + + + + +
e:--------|-------------------------|-1-----------1-----------|
B:--1-----|------------------------1|------------1------------|
G:-------1|-------------------1-----|-------1-----------------|
D:--------|-3-----------------------|-------------------3-----|
A:--------|-------------------------|-------------------------|
E:--------|-------------------------|-------------------------|





 次に「導音動機」。「導音(=Leading Tone)」は狭い意味では、長音階(メジャー(=イオニアン)スケール)の第7音(=M7、ドレミファソラシドの場合のシ)のことを言う。半音上昇して主音へ導く意味で、だ。だが「果たしてシだけが特別なのか?」。広義に「主音、乃至トニックへの解決をスムーズに行う音」という意味で導音を解釈した場合、

  • 完全五度上(=完全四度下)
  • 半音上
  • 半音下



 つまり、Cメジャーの場合、「B」のほか、「G」「Db」も「導音」として解釈する場合もある。この点は、ベーシスト濱瀬元彦氏の「ベースライン・ブック」に詳しいので是非読んでみて欲しい。要点を纏めると、

  • 「導音」の概念は、ドミナントからトニックに向かうヴェクトルの中に存在する。
  • ドミナントがトニックに向かう理由は、18世紀ラモーが証明した「基音と上方倍音の関係」に基づいている。
  • だから、Cの3倍の振動数を持つ(ギターの7フレットのハーモニクスね)Gは上方倍音としてCに帰属し、Cの音に倍音として元々含有されている。



 ということだ。「完全五度上(Cに対するG)」はだから導音であり、「半音上(Cに対するDb)」は、V7を裏コードとして代理できるから導音である。また「半音下」は、ドミナントV7の3rd を持つものとして導音として定義するならば、「導音はドミナントである」という定義が成り立つことがわかる。実際にベースラインを演奏したことがあるベーシストならば、この理論の説得力があることにお気づきであろう。




 さて、3〜4小節は、



12/8 allegro assai
C/E F C/E
+ + + + + + + + + + + +
e:-------------tr--------0-|-------------------------|
B:-1---------3-13-------1-3|-1-----------------2-----|
G:-0-----------2-----------|-0----------------------3|
D:-2-----------3-----------|-2-----------------------|
A:-3-----------------------|-3-----------------------|
E:-------------------------|-------------------------|





 キーFマイナーに対するドミナントCに和声進行している。まあ、そりゃそうだろう。つまり、「トニックとドミナント対比」ということが言いたいに過ぎないのか? 野村良雄先生は? 続きは明日。




■関連リンク:ベートーヴェン ピアノソナタ midi

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