「音楽美学」を読む【8】ジョン・コルトレーン「アフロブルー」
John Coltrane Live at Birdland John Coltrane Live at Birdland 野村 良雄 音楽美学 改訂 |
引き続き「トニックとサブドミナントマイナー」が描く音楽世界のケーススタディ。今日は、ジョン・コルトレーン(John Coltrane)1963年10月8日の録音「ライヴ・アット・バードランド(Live at Birdland)」から、「アフロ・ブルー(Afro Blue)」のテーマ部分を取りあげる。キューバ生まれ、ペレス・プラード楽団にも在籍した名コンガ奏者、モンゴ・サンタマリア(Mongo Santamaria)が作曲したラテン・パーカッションの名曲。コード進行はシンプルで、リズムとアドリブを重視した楽曲。まるでアフリカの大樹林に迷い込んだときに聴こえてくる民俗音楽のような力強さを持つ。 とりわけこのアルバムでのライブ演奏は、コルトレーンのファンの中でさえ「最も熱い超名演」の一つとされている。テーマ部分。ギターで旋律を、ベースでベースラインを弾いてみよう。拍子は6/8とした。キーはFマイナー。
コルトレーンの超クリアー・トーンなソプラノ・サックスから始まる冒頭。2小節目でベーシスト、ジミー・ギャリソン(Jimmy Garrison)が加わり、3小節目からドラムス、エルヴィン・ジョーンズ(Elvin Jones)とピアノ、マッコイ・タイナー(McCoy Tyner)が入ってくる(何て豪華で錚々たる面子!)。冒頭4小節のコード進行は、 Im-bIII-IIm7b5-Im ImとbIIIは共にトニックマイナー、IIm7b5はサブドミナントマイナー。「トニックとサブドミナントマイナー」だけで描かれている。1と3小節の4/8拍目をIVM7=BbM7と解釈(I-IVヴァンプ的解釈)しても良いが、基本的に後のアドリブ演奏ではこの部分はFm一発で展開されており、Im一発と捉えたほうが潔い。 テーマ8小節後半の5〜8小節は、
コード進行は、 bVII7-bVIM7-bVII7-Im サブドミナントマイナー(bVII7、bVIM7)とトニックマイナー(Im)だけの構成。この曲は「トニックとサブドミナントマイナー」だけで描かれる音楽であり、また、その和声構成が即興演奏のなかで様々に解釈され、コードアレンジされ、代理されていくことを描いている。そういう意味じゃ、「ベートーヴェン、ピアノソナタ第23番へ短調作品57の「熱情(アッパッショナータ、Appassionata)」と双子のような存在と僕は考えている。 その仕掛け人としてまず、僕の大好きなベーシスト、ジミー・ギャリソンについて語りたい。コントラバスの師匠(参照)にレッスン中、「お前の音って、朴訥としてて洗練されてなくて、なんか、ジミー・ギャリソンに似ているよな」と言われたことがあって、それからギャリソンを意識して聴くようになった。ギャリソンは、超絶技巧(?)ドラマー、エルヴィン・ジョーンズとのリズム隊・コンビでも知られるが、初めコルトレーン・カルテットに入った頃はジョーンズとの息が合わず、また、音量がないとジョーンズのドラムに全てかき消されてしまって(意外とウッドベースの音は小さいのだ)、1日10時間以上、死に物狂いの練習をしたという。「ジョーンズがこう来たら、自分はどうベースを弾くか?」というシミュレーションを立てて、ジョーンズのプレイに対応する形での自分のベースラインを構築していったという。 そういったギャリソンの試行錯誤が、この「アフロ・ブルー」では見事に結実している。暫く、この曲のベースプレイをじっくり研究していく予定だが、ウッド・ベースの重弦カッティング(ギターのようにだ!!! )、ファンクを予期するが如きベースリフなどなどものすごい演奏術が展開されていく。そして、コード進行の解釈。上記テーマ部のコード進行が、約10分間ただただ繰り返される構成なのであるが、緊張感を絶対に損なうこと無いコードアレンジが展開されていく。まあ、とにかく、本当にすごいのです。 ジミー・ギャリソンはエルヴィン・ジョーンズのドラムの音が大きすぎるため、常に自分の奏でるベースラインを大声で歌っていたという(音の下書きのようなもの)。この録音でもギャリソンのその歌声がかすかに聴こえてきて、なんだかとても嬉しい気持ちになる。いつ聴いても耳が火傷しそうな熱さだ! ■関連記事:前回 |