「音楽美学」を読む【9】ジミー・ギャリソン「アフロブルー」





Mongo Santamaria


Afro Blue: The Picante Collection







Elvin Jones, Jimmy Garrison Sextet


Illumination!


野村 良雄


音楽美学 改訂

 引き続きジョン・コルトレーン「ライヴ・アット・バードランド」の名演、「アフロ・ブルー」を、「トニックとサブドミナントマイナー」が描く音楽世界のケーススタディとして研究。基本的には前回研究したテーマ部分8小節([A]+[B])の繰り返しからなり、中盤までの構成を8小節ごとに追ってみると、

  • 1) テーマ[A][B]演奏/Sax(ジョン・コルトレーン)旋律
  • 2) [A][B]変奏/Piano(マッコイ・タイナー)アドリブ
  • 3) テーマ[A][B]演奏/Sax 旋律
  • 4) [A]変奏[B]テーマ/Sax
  • 5) [A][B]変奏/Piano アドリブ
  • 6) [A][B]変奏/Piano アドリブ
  • 7) [A][B]変奏/Piano アドリブ




 と各名手の熱血極まりない演奏が展開されていく。(1) は昨日解説済み。(2) で[A][B]のコード進行がいきなりチャラにされたような印象を受ける(いきなり構造破壊はコルトレーン・カルテットの得意技だ!(多分))。ベーシスト、ジミー・ギャリソンは、



[A]
[bass]
Fm
+ + + + + +
G:-------------|-------------|
A:-------------|-------------|
A:--3-1--------|--3-1--------|
E:-1----4-44-3-|-1----4-44-3-|


 というFmワンコードでのリフを展開し始める。このベース・リフが、拍の頭(強拍)を強調せず、シンコペーション+(弱拍の)裏打ちを重視したフレーズであることに着目しよう。それはなぜかと考えると、ドラマーのエルヴィン・ジョーンズがそのとき6/8拍子のの拍の頭を強調した演奏をしているからだ、ということが解る。昨日述べたように、ギャリソンはエルヴィン・ジョーンズが生み出すビートの隙間を埋めるかたちで、ものすごいグルーヴを2人一体となって生み出していくのだ。このシンコペーションの感じ、ファンクでのベースプレイを先取していると僕は感ずる。(2) はFmワンコードで演奏されている。これもファンクっぽい。




 (3) でソプラノ・サックスのテーマに戻り、(4)ではオブリガート気味にコルトレーンがサックスで[A]メロを変奏するが[B]で元のメロディに戻る。




 そしていよいよ、(5)から怒涛のピアノソロが開始されるわけだが、ここのベースプレイがスゴイ。昨日書いた、「ウッド・ベースの重音カッティング」の登場だ。それは[B]パートの部分で登場する。



[B]
[bass]
Gb7 Fm
+ + + + + +
G:-------------|-------------|
A:---4-4---4-4-|---4-4---3-3-|
A:---4-4---4-4-|---4-4---3-3-|
E:---2-2---2-2-|---2-2---1-1-|


 E弦は押さえていないかもしれないが、ものすごい重厚な音で聴こえるような気がするので(笑)タブ譜には書かせていただく。さて、昨日の解析では[B]のコード進行は、


Eb7-DbM7-Eb7-Fm




bVII7-bVIM7-bVII7-Im


 だったはずだが、


bII7-Im


 になってしまっている。何でだ?


 サブドミナントマイナーVIm,bVII7,bVIM7)は、ドミナント・セブンス(V7)と交換可能であり、「ドミナント性を内包したサブドミナント」と解釈されることがある。キーCメジャーで考えた場合、

  • IVm=F,Ab,C
  • V7=G,B,D,F



 と似ても似つかないのだが、ドミナントってのはトニックに落ち着く前の魑魅魍魎タイム。ドミナントに濁った不協和音を加えれば加えるほど、トニックに戻ったとき「ほっ」とする訳。例えるならば、宮部みゆき原作&大林宣彦監督「理由」(参照)で、重要参考人石田直澄(演:勝野洋)が片倉ハウスの娘、片倉信子(演:寺島咲)が傘を構える姿(←これがドミナント)を見て自分の娘由香里(演:宮崎あおい)を思い出した(←トニック)ときのように。仮面ライダートドロキ(演:川口真五)(←ドミナント)が師匠ザンキ(演:松田賢二)(←トニック)の元に帰るように。修二(演:亀梨和也)がクラスから疎外されても(←ドミナント)信子(演:堀北真希)と彰(演:山下智久)の元に戻る(←トニック)ように(ワシにはこれくらいしか例え話がないのか)。ハジを承知で言うならばこれこそがカタルシスだ。「サブドミナントマイナー→トニック」は世界中のカタルシスを描いている。ドミナントは不安であれば不安であるほうが効果的。このV7にアルタードテンションを交えて、

  • V7 b9 11=G,B,D,F,Ab,C
  • IVm=F,Ab,C



とすると、そのままサブドミナントマイナーに代理可能であることがわかる。そこで更にドミナントを裏コード(bII7)にする。

  • V7 b9 11=G,B,D,F,Ab,C
  • bII7 = Db, F, Ab, B



 3音が共通して代理可能。とまあ、このようにして、


bVII7-bVIM7-bVII7-Im


 ↓


bII7-Im


 という大胆なコードアレンジがなされ、まるでフラメンコギターの如き半音上下下降でのベースカッティングができているわけ。「トニックとサブドミナントマイナー」の世界だからこそ、ドミナントドミナントの裏に代理させたりすることができるのだ。この色彩感の深さだ。このアイデア、ギャリソンが考えたのか、コルトレーン or タイナー or ジョーンズの指示なのかはわからないが、ギャリソンがジョーンズの音量に対抗するための苦肉の策から生まれた最高のアイデァのような気がしている。ベーシストならば是非、この部分の演奏だけでも聴いて欲しい。ゾクゾクします。




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