「音楽美学」を読む【14】のだめカンタービレなど





二ノ宮 知子


のだめカンタービレ (6)







Edward Elgar, Ralph Vaughan Williams, William Walton, Hephzibah Menuhin, Louis Kentner, Sir Yehudi Menuhin


Elgar: Sonata for violin in Em; Walton: Sonata for violin







ザ・バンド


ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク







宮部 みゆき


火車

 トニックとサブドミナントマイナーを巡る行旅死亡者の旅。音楽は軽々と足立区からアメリカ・デルタ地帯へ、アイルランドへ、アルゼンチンへ、ドイツへ行旅する。世界を広く豊かにするのはリスナー自身だ。




 そういえば先日、また長男の自宅模擬試験(Z会)があり、邪魔で煩わしい私と次男(小学1年生)は行旅を余儀なくされた。立川に出て、漫画喫茶に入り3時間パックを利用する。店員は黒のミニスカートに白のエプロンの制服。エプロンはアンナミラーズ風に、肩から胸の周りを婉曲に挑発的に迂回して腰へ、そこで結ばれミニスカート上に垂れ、フリルが付いている。念のため「小学生は大人料金と同じですか?」と尋ねたら、彼女は入りたてだったらしく、「ちょっとお待ちください」と先輩バイト(社員?)を呼び出し「え? なんで無料だと思うの。普通料金よ」と怒られていた。すまないな、と内心メイド風衣装のアルバイト嬢にわびつつ、「なんで客商売でありながら、客の前で後輩にぞんざいな口を聞くんだよ、そういう小さな力関係を客に見せちゃいかんだろ」と、”小さな椅子でふんぞりかえる”(by 宮沢賢治)先輩バイトの職務態度に嫌な気分になる。別に客はあんたの人間関係を見に来てるわけじゃない。狭く寂しい世の中にしているのは貴女自身だ。




 そんなことはどうでもよく、最近私が読んでいるのは、二ノ宮知子氏著「のだめカンタービレ」だ。第6巻、真一と のだめ(野田恵)は真一の実家に赴き、早朝のセッションを楽しむ。エドワード・エルガー(Edward Elgar)の「ヴァイオリン・ソナタ 82(Sonata for Violin and Piano in Eminor Op.82)」だ。第1楽章 Allegro の冒頭4小節ヴァイオリンの旋律をギターで弾いてみる。ものすごく力強く、アレグロで!(速く!)





Am
+ + + + + + + +
e:-----------------|-------5-5-------|
B:-------------5---|-----------------|
G:/5-------7-------|-----------------|
D:/2---------------|-----------------|
A:/0---------------|-0---------------|
E:-----------------|-----------------|
C Edim
+ + + + + + + +
e:-3---------------|-----------------|
B:---5-4-5---------|-------5-5-------|
G:---------5-------|-----------------|
D:-----------5-4-5-|-----------------|
A:-----------------|-4---------------|
E:-----------------|-----------------|




 コードの解釈は相変わらず”オレ流”で申し訳ないが、キーEマイナーと捉えた場合、コード進行は、


IVm-bVI-Idim


 サブドミナントマイナー(IVm, bVI)→トニック(Idim)ということになるのかな? しかし、この部分だけをキーAmと捉えたとするなら、


Im-bIII-#Idim


 という解釈も成り立つ。#Idimを、I7 b9(Iセブンス・フラット・ナインス)と代理する

  • #Idim=A#dim=A#,C#,E,G
  • I7b9=A7b9=A,C#,E,G,A#

※4音が共通している


 ならば、先日語らせていただいた、”ヨーロッパの民謡に根付いた同主調転調”というテーマが見えてくる。ブリテン民謡「ソルジャーズ・スリー」や、ベートーヴェンピアノソナタ第23番へ短調作品57の 「熱情(アッパッショナータ)」の同主調転調のパワーのことだ。そしてそのような構造がケルト音楽の影響を間接的に受けたエルガーの作品の主題部で提示されていること、ソレを のだめ と真一が真剣に演奏していること…。そして、真一の弟が「愛国主義者」と誤解されたエルガーを「実はそうではない」と弁明していること…。こういう驚きがあるから音楽ファンと漫画喫茶は辞められない。夢中で読んでいるため、次男がプレステ2でR15指定ゲームなどをやっているのを見逃してしまい、女房にこっぴどく叱られたが。




 「音楽について何を語ればいいのだろう」と書いたことがあった。あれは某社会法人や某プロバイダに対する当てこすりでも何でもなく、いつも悩んでいることだ。その答えを見つけるためにブログを書いている。「のだめカンタービレ」の音楽に関する記述=テクスト=レトリックは非常に勉強になると思う。あの漫画が無ければ、自分は五線譜に記された、「Allegro」や「Andante」などの意味を、本当に音楽表現で大事なものとして実感することは無かっただろう。だから職業音楽家としてはイマイチなのかもしれない。




 音楽は音符と和声だけで出来ているものじゃない。それでは、コンピュータに演奏させて置けばよい。Cantabileカンタービレ)と何故作曲者は譜面に記したか? 「歌うように! 歌うように! 歌うように!」その作曲の意図を演奏者に伝えるためだ。そして演奏家はソレを受けて色々悩みながら自分の音楽を描いていく。「のだめカンタービレ」はその姿を描いている。見事な音楽批評ではないか。私はこの本に学ばなきゃならない。




 次男と帰り道、本屋に行き、宮部みゆき火車」を買った。今週は通勤電車のなかで、こればかり読んでいる。「拾玉集」の古歌(歌詞を引用します)

火車の、今日は我が門を、遣り過ぎて、哀れ何処へ、巡りゆくらむ」

と、ザ・バンド(the Band)「火の車(Wheels of Fire)」が同時に聴こえてくるような小説だ。JASRAC とかクダラナイ奴等の手が及ばない、和歌の世界と古典雅楽の世界を極めるかな(笑)。音楽は本当に深く、一生学びつづけられる。




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