「音楽美学」を読む【24】ロバート・ワイアット「サインド・カーテン
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今年最後。今年の音楽の締めくくりとして、やっぱここは1番好きなミュージシャンの作品かな、古い録音ブツだけど。1973年6月、落下事故により下半身不随となった元ソフト・マシーン(Soft Machine、参照)、マッチング・モール(Matching Mole、参照)のロバート・ワイアット(Robet Wyatt)。車椅子のミュージシャンとして再起する彼を支援して、1974年9月8日(日曜日)ピンク・フロイド(Pink Floyd)のメンバーや、マイク・オールドフィールド(Mike Oldfield)、ジュリー・ティペッツ(Julie Tippets)らプログレ、カンタベリー・ロック系の豪華ゲストを集めて行われたロイヤル・ドゥルリー劇場(Theater Royal Drury Lane)で行われたコンサート。この秘蔵録音が今年、CD発売された。今年最も愛聴。 このブログに付き合ってくださったかたには本当に感謝。小さな話題ですが、「音楽批評とは何か?」「引用とは何か?」「音楽の構造について語ることとは何か?」について皆さんと一緒に悩んで考えて学んだ一年だった。このブログの主旨は、音楽の構造をもっと楽しく、音楽のように語れたら? 解釈できたら? という自分の自身の”音楽愛”を内省する旅のつもりだ。いかにして音楽的に、僕らは音楽のことを語れるのだろう。書けるのだろう。 「ここがブリッジで…」「ここで転調して…」僕は毎日考える。でも、音楽構造をそのまま歌詞にしてしまったら? ウィットに富むカンタベリー・ロッカー、ロバート・ワイアットは、そんな曲を書いていて、上記CDにも収録されている。今年最後の解析はロバート・ワイアット「サインド・カーテン(Signed Curtain)」を。キーはCメジャーからスタート、4/4拍子。詩は筆者による意訳。「こんなことを歌にできるんだなぁ」という曲だが、実際に聴いてみて欲しい。本当に哀しい歌声だ。 サインド・カーテン(Signed Curtain) 作詞、作曲:ロバート・ワイアット(Robert Wyatt) 【I】
キーボードソロで展開されるイントロ。5小節目からベース、ドラムスが入ってくる。コード進行は、1〜4小節 I-bVII7-VIm7-IVM7 と、トニック(I)→サブドミナントマイナー(bVII7)→トニック(VIm7)→サブドミナント(IVM7)の進行。5〜8小節では、 I-III7-VIm7-IVM7-V7 と、サブドミナントマイナー(Bb7)の部分がドッペルドミナントとしてメジャー化された、トニック(E7)に置き換わっている。 【A-1】
歌詞のとおり、ここは一回目のバース(Verse)。「バース」「ブリッジ」…という概念は、やっぱり教会・聖歌の構造から来るものなのだろう。聖歌における独奏部(=皆で合唱する「コーラス」に対置する概念)だから。バース部のコード進行は、 bVII7-V6-IVM7-I の繰り返し。 【B-1】
歌詞のとおり、一見ココはコーラスのように思える。コーラス(Chorus)とは、楽曲構成上、テーマ(主題)を提示する箇所で「サビ」と同意だろう。しかし、その後【C】パートが出現するので、「やっぱ、ブリッジ(Bridge)」だ、ということになる。ブリッジとは、「第二バース」「Bメロ」として解釈される場合もあるが、一般的にバースとコーラスを繋ぐものとなるのだろうが、とにかく、ワイアットの”遊び精神”たっぷりの作曲・作詞術が楽しい。 【C】
別パートとして登場した【C】パートはイントロ【I】パートの5〜8小節の再演。 この後、【A-2】(歌詞は「ここは2回目のバース」に変わる)を繰り返し、 【B-2】
【D】
「転調(Key Change)」と歌われているようだが、二小節だけキーDメジャーになった後、すぐにキーCメジャーに戻っていると思われる。旋律的にもCメジャースケールの範囲を逸脱していないようだ。よって、キーCメジャーとして解釈すると、 VIIm7-II-VIm-III7-V-I-IVm VIIm7とIIは一時転調時のキーDメジャーのトニック、完全五度上昇を2回繰り返しIII7へ、短3度上昇(III7をメジャー化されていないと捉えるとIIIm7で、Vを主調とした場合のトニック)してVへ、そこから完全四度上昇を2回繰り返し、サブドミナントマイナーIVmで終わる。 ロバート・ワイアットが在籍した「ソフト・マシーン」は、ウィリアム・バロウズ(William Buroughs)の小説「柔らかい機械」のタイトルにインスパイヤされたロック・バンドで、何よりも自由な曲想、既存の楽曲形式、コード進行を破壊する即興演奏、鼻歌のような即興歌詞を持ち味としており、ワイアットの作品は常に、このような遊び心に満ちている。上記CDでの演奏は、
という面子のようだ。オールドフィールドがギンギンにギターソロを弾いていて、このプレイは貴重。 ■関連記事:前回 |