古代ギリシア「セイキロスの歌」





Greek Anonymous, Mesomedes


Musiques de l'Antiquité Grecque







Nederlands Blazers Ensemble, Manos Achalinotopoulos, Vangelis Karipis


Zeibekiko: Greek Concert

 中世のグレゴリウス聖歌から、古代ギリシャへと音楽の起源を遡る。1883年トルコの小アジア地方、トラレス(Tralles)付近で発見された「セイキロスの歌(Song of Seikilos)」。紀元前2世紀頃に歌われたスコリオン(skolion、飲酒歌)で、セイキロスが妻の墓碑銘として石柱に刻ませた曲。




 解説はこのページに詳しいので引用させていただく。

 1883年、Ramseyが小アジアのレストランの石柱に刻まれているのを発見した最も魅力のある小品で、推定年代は前2世紀または前1世紀といわれる。
 もとは墓碑で、前書きからエウテルペーの息子のセイキロスという人物が、親族のためにこの墓碑をたてたことがわかる。

 歌詞を直訳すると、次のようになる。

 生あるかぎり 輝いてあれ
 君よただただ 苦悩をやめよ。
 人生は束の間、
 時の取り立てが待っている。

 最後の行の"telos"は語意の幅がきわめて広い語で、「終わり」「完成」の意味もあれば、「債務」といった意味もある。そして、"apaitein"が「返還請求する」という意味であってみれば、あまり抒情的な気分にばかりは浸っていられないが……。古代ギリシア人の現実主義をうかがわせて興味深い。
 ここで使用されている楽器はリュラLyraである。





 旋律は、コチラで聴くことができる。キーはDメジャーと思われ、旋律は、

  • D(=I)
  • E(=II)
  • F#(=III)
  • G(=IV)
  • A(=V)
  • B(=VI)
  • C#(=VII)

と、普通のメジャースケール(=グレゴリオ聖歌のヒポリデイア旋法、チャーチモードのアイオニアン、イオニアン)を全音階的に使用している。リズムは6/8拍子と思われ、ギターで独奏するならば、


A7 D
+ + + + + +
e:---0---0-----|-----0-------|
B:-------------|-2-3---3-----|
G:-2-----------|-------2-----|
D:-2-----2-----|-2-----0-----|
A:-0-----0-----|-0-----------|
E:-------------|-------------|
A7 D G
+ + + + + +
e:-------0-----|-------------|
B:-2---3---3-2-|-0-----0-----|
G:-------------|---2-----0---|
D:-2-----2-----|-0-----0-----|
A:-0-----0-----|-------------|
E:-------------|-------3-----|
A7 D A7 G
+ + + + + +
e:-----0-------|-------------|
B:---2---3-2-3-|-2-----0-----|
G:-2-----2-----|---2-----0---|
D:-2-----0-----|-2-----0-----|
A:-0-----------|-0-----------|
E:-------------|-------3-----|
A7 D A7
+ + + + + +
e:---------0---|-------------|
B:---2-0-3---2-|-------------|
G:-2-----------|-2-2----2----|
D:-2-----2-----|-0-------42--|
A:-0-----0-----|--------0----|
E:-------------|-------------|




 というような感じだろうか。

 音楽の歴史は古く、いつごろから始まったかはっきりしたことは解っていない。しかし人類が人間らしい生活を営むようになったときには、すでに音楽を持っていたのではないかと考えられている。その音楽がどのようなものであったかということも、はっきりしないが、古代の壁画や民族の音楽を研究することによって、いろいろ想像されている。

※音楽教育社「音楽の歴史と名曲の鑑賞」第一部音楽の歴史から引用




 グレゴリウス聖歌にはリズムが無かったが、約12世紀遡るこの音楽にハッキリとしたリズムが記譜されていること。ギリシア音楽も単声音楽(monophony)とされているが、リュラ、ギタラなどの弦楽器を伴奏楽器として爪弾きながら、これらの歌を弾き語るギリシア人の風景が想像できる。コードという和声概念はどこまであったのか不明だが、上のようなコード進行になるんじゃないだろうか?


V7-I-V7-I-IV-V7-I-V7-IV-V7-I-V7


 ピタゴラスが発見したという、音程の「協和・不協和」、現代の音階の基礎となった7つのギリシャ旋法型。弦楽器を用いた完全八度(1:2)や完全五度(2:3)という音程の整数比の発見は、トニック(I)、ドミナント(V7)、サブドミナント(IV)という近代和声学の基礎をなすものであり、「宇宙の調和を象徴する楽器」と呼ばれたリュラ(7弦の竪琴)では複数の弦の調和音をメインとした演奏がなされていたらしいため、古代、この歌に一体どのような和声が作られていたのか、想像するだけでワクワクしてくる。




 「セイキロスの歌」ギターで弾いてみて思う。古代音楽→グレゴリウス聖歌って、ケルト音楽にかなり近い印象を受ける。続く。




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